[E]演出の基礎と実践 - 報告
Posted on 7 月 25, 2007
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E講座ドキュメント by いしはら太陽
演出家として活躍されている青年座の宮田慶子さんの講座を受講しました。
朝9時開始にも関わらず、会場には20人程の方が集まり、講座開始。
個人的には、これまで演劇大学で受講したのは「シェイクスピアと遊ぼう」「舞台上でのコミニュケーション」と、どちらも実践的な内容の講座だったので、最終日にして初めて講義形式の講座を受講する事となりました。
皆さんの机の上には大学ノートとペンケースが用意され、まさに演劇「大学」といった印象。
まずは演出家を教育するということについてのお話。
宮田さんは海外での演出家の養成所に実際に足を運ばれており、今回は特にイギリスでの体験を語ってくださいました。養成所では、まずは演出をする上での土壌となる美術や文学、またそれらの歴史に関する幅広い教養を身につけるるそうです。また心を身体イメージに結びつけるヨガの考え方も取り入れるなど、西洋・東洋問わず積極的に取り入れているとのこと。
一方日本では「演出家を教育する」という考え方がまだ浸透しておらず、演出の方法論も演出家の独学によるものとなってしまい、普及するためにはまだまだ時間が必要だろうという事でした。そんな状況の中、このような講座を受けられるという事は貴重だし、ありがたいなと感じました。
ここで、講座内容の流れを示すメモが配られいよいよ本題へ。
その1 演出のポジション
舞台を作る上で重要な責任者、演出・制作・舞台監督の三人の役割についての説明です。
基礎的な話ですが、宮田さんの経験に裏打ちされた話に、改めて気づかされる点も多くありました。
特におもしろかったのが作家と演出家の関係の話。
『執筆中のある劇作家さんの部屋を訪ねたら、戸を開けた瞬間、ブワッと熱気が吹き出す感じがした』『ヤツらはけなげに、心を削って書いている』『書きおろしの台本、もらう時は、冗談半分、本気半分で『玉稿を賜る』と言う』など、エピソードも交えつつ熱く語っていただきました。
また、舞台監督・制作という立場の重要性についても改めて考えさせられました。
ここで感じたのは、宮田さんのスタッフに対する信頼と尊敬です。
演出というのは舞台に関して多くの権限を持っていますが、だからこそ、謙虚さも備えているものなんだなと感じました。
その2 演出の役割
非常に単純明快な話ですが、演出の役割とは台本を具体化するということ。
これについて宮田さんは一つの例え話をされました。それは、演出とはレストランのシェフであるということ。役者という素材をどう料理するか、どのように組み合わせるか、また調味料を入れるタイミングはどうするか、そしてシェフである演出家は料理だけでなく、どのような皿に盛りつけるかとか(舞台装置)、店の雰
囲気はどうするのかとか(照明・音響)、ひいてはどこに店を構えるのか(劇場の選択)、など大局的な視点が必要なことを教えてくださいました。
『演出家を引きで見る人はいない』
これは非常に的を射た言葉だと思いました。
その3 演出の仕事の流れ
台本をもらった後、宮田さんはまず「場割表」というのをスケッチブックの見開きで作られるそうです。
台本に書かれている具体的な状況設定やおおまかな話の流れを見開きで書き出す事で作品自体を大局的に見返す事が出来るとのこと。
さらにこれを作る事で、今まで気づかなかった作家の意図に気づく事もあり、作家の緻密な計算に驚かされる事もしばしばあるとおっしゃっていました。
他に参考になったのは、スタッフとの打ち合わせは稽古の前に済ませておくとのこと。
これは、稽古中に他の事に神経を使いたくないからということでしたが、制作をスムーズに行う上でも有効な手段だなと感じました。
とここまで説明してきて休憩に。
あっという間の3時間半、もっとお話を聞きたいという皆さんの要望に、休憩時間もそこそこに次のテーマへと進みます。
その4 演出をやっていく上での教訓
「演出家に必要なのは哲学とセンス」
これは、演出家になって間もない頃、宮田さんが先輩から言われた言葉なのだそうです。
宮田さんにとってこの哲学にあたる部分は、一言で言うと「人の営みに対する深い愛情」だそうです。
駄目で本当にどうしようもない人間、それが本当は魅力的な人間の姿、それを演じる事が出来る、そういう器量を身につけた時に役者は一人前になる、そういった話でした。またそういう事を役者に演じさせる事が出来るのが、一人前の演出の器量ということなのでしょうか。
つづいてセンスについての話。
宮田さんは音楽に対する興味は昔からあったのですが、絵に対してはそれほどでもなかったそうで、ある時「このままではいかん」と一念発起して、美術書を読んだり、美術館へ足を運んだりして、「この絵のどこ
が自分は気に入ったんだろう」または「どこが気に入らなかったんだろう」と考えているうちに、自然と絵に対するセンスが身に付いていったそうです。
そして面白いのは、そうして絵に対するセンスが身に付くと自分でも絵が描けるようになり、舞台装置などの打ち合わせの時に絵で説明できるようになったということです。
いろんな事物に触れセンスを磨く事で、表現力を獲得する、そしてその表現力で、イメージを具体化し役者と共有する。演出家の仕事とはまさにそれなんだなと感じた瞬間でした。
ここで講座も佳境となりいよいよ具体的な演出術についてのお話です。
人物の配置と人間関係や相互の力関係を対応させ、一つの絵としてみせる、ステージングのテクニックについて教わりました。
これは演出の講座なのに物理学の引力や斥力の話のようでもあり、興味深いお話でした。
また一つの台詞でも裏にある「サブテキスト」と呼ばれる、言わば心の中の台詞を変える事で、演じ方が変わってくるという話や、役者の動きを実際に紙の上に物を置いてシミュレーションしてみるなど、様々な引
出しを惜しみなく披露してくださったので、勉強というよりも一つのエンターテイメントという感じですごく楽しめました。
動作に関する演出の話で、足の組み方だけで感情が違うという例を説明する際は、たまたま最前列に座っていたので、僕も前に呼ばれ、少しお手伝いをさせて頂きました。
最後の質問タイムは皆さんから、具体的な技術に関するものから、個々人の趣味嗜好に関するものまで、幅広く質問がよせられ、演出の裏話も聞けたりなど、非常に盛り上がりました。
トータルで8時間におよぶ大講義でしたが、皆さん集中が途切れる事がなく、むしろはつらつと喋る宮田さんの口調も相まって、話に引き込まれていくといった感じで、たいへん充実した時間を過ごす事が出来ました。
感想
「演出の基礎と実践」という講座タイトルにもかかわらず、演出・役者はもちろん、スタッフや制作、ひいてはお芝居を見る側の人たちにとっても興味深く、今年の演劇大学の最後を飾るにふさわしい講座でした。